太陽熱温水器?下水熱回収ヒートポンプ技術を利用した消化プロセスのエネルギー高効率化システム開発
研究開発の目的
沙巴体育平台工学研究科の貫上教授等のグループは、このほど、環境省の平成25年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発?実証事業(環境省委託事業)に大阪市などとともに採択されました。環境省委託事業では、下水処理場において、これまで消化槽の加温燃料に使用されていた汚泥処理(消化)プロセスで発生する消化ガスを、太陽熱、下水熱、消化汚泥熱などの未利用熱エネルギーに代替するためのシステムの開発?実証を行います。
具体的には、消化槽の加温用として、温水熱源としての太陽熱温水パネル、下水処理水から熱回収を行うヒートポンプ、消化汚泥からの熱交換器などを用いた温水供給システムから構成される、国内初の消化ガス有効利用システムの開発?実証を行います。
これにより、消化ガスを下水処理場の近隣の既成市街地で熱?電気として有効利用することで、都市のライフサイクルにおいて発生する自然エネルギー(消化ガス)を都市内で循環?再利用する、新たなエネルギーの地産地消モデルの構築に貢献することを目標としています。
下水処理場で生み出されるバイオガスは、カーボンフリーで、生活を通した循環サイクルによって生み出される持続可能なエネルギーです。また、バイオガスは貯蔵性や搬送性に優れ、需要地でコジェネレーション等により、必要な時に電気や熱に変換することができます。バイオガスを生み出すためには加熱が必要であり、発生するバイオガスの約30~40%が消費されています。
本研究開発は、環境省のCO2排出抑制強化誘導型技術開発?実証事業の採択を受けて、バイオガスの生成過程で消費される熱を太陽熱や下水熱?汚泥熱といった未利用エネルギーで代替する技術開発を行うことで、利用可能なバイオガス量を増やし、地産地消型の低炭素社会の構築をめざします。
図1 下水バイオマス資源のエネルギーサイクルイメージ
研究開発の概要と特徴
本研究開発は、太陽熱と下水熱および汚泥熱を回収して消化ガスの有効利用量を最大化するシステムの開発をめざしたプロジェクトであり、下水熱や太陽熱?汚泥熱を組合せて消化槽の加温に利用する試みは国内発となります。
現状では、下水汚泥処理プロセスで発生する消化ガスを燃焼させることで、消化槽の加温に用いています。本研究開発では、未利用熱エネルギーを効果的?効率的に回収?利用して消化槽を加温し、消化ガスを既成市街地でエネルギーとして有効活用することをめざしています。
本プロジェクトは、平成25年度~平成27年度の3ヶ年にわたり、大阪市内の下水処理場をフィールドとして研究開発と実証事業を行います。
研究開発の特徴は以下の通りです。
- 下水処理水等からの熱回収と太陽熱を熱源とする高効率ヒートポンプの開発
- 変動が激しい太陽熱を熱源として有効に利用するために、システム全体で連携しながら分散制御する「スマートバルブ」と「マルチセンサー」の開発
- 低コストでメンテナンスが容易な汚泥用熱交換器の開発
- 1.~3.により、高温が得られるものの季節や時間帯、天候によって大きく温度が変化する太陽熱、安定熱源であるものの低温しか得にくい下水熱および、高温で安定した熱源であるものの夾雑物が多くて目詰まりなどの課題が多い汚泥熱を回収し、かつこれらの熱利用を最適化する制御システムの開発
研究開発の背景
下水汚泥は、都市部を中心とした日常生活のなかで、恒常的かつ大量に発生しており、資源が枯渇しないという利点があります。また、下水汚泥から生成したバイオガスは、搬送が容易で、電気や熱と比べて貯蔵性が高く、都市部で生みだすことができる再生可能なエネルギーです。
下水汚泥は、下水処理場の汚泥処理プロセスにおいて、消化槽でメタン発酵処理される際にバイオガス(消化ガス)を生み出します。しかしながら、現状では消化槽を有する下水処理場は全体の約14%に過ぎず、下水汚泥の13%※1が消化ガスなどとしてエネルギー化されているにとどまっています。また、消化槽を有する処理場でも、発生した消化ガスの約3割が消化槽の加温に自己消費され、有効利用されずに焼却処分されている量も約3割にのぼります。
本プロジェクトによってこれらの消化ガスが再生可能エネルギーとして地域で有効利用でき、全国の下水処理場において消化槽の導入が促進されれば、地球温暖化防止に大きく貢献できると推定されます。
なお、国内の下水処理場では、広大な敷地を活かした太陽光発電の導入が徐々に増えていますが、太陽熱温水器は全く活用されていません。また、ヒートポンプを用いた下水熱※2の回収は10例程度で、いずれも地域冷暖房の熱源としての利用を検討したものです。消化槽の加温のために太陽熱や下水熱?汚泥熱を活用する今回の研究開発は先駆的な試みです。
※1 H24.2「バイオマス利活用に関する国土交通省の主な取組み」国土交通省
※2 下水熱の利用可能熱量は約305PJ(日本全体の下水年排水量を145億m3、利用可能温度差を5℃としたとき)
研究開発により期待される効果
国内の下水処理場での消化ガスの潜在発生量は現状の3倍に相当する年間約10億m3と見込まれることから、全国に本システムを導入した場合、100万kW級の発電所に相当し、年間約54万tのCO2削減効果が見込まれます。また、大阪市内の12カ所の下水処理場に本システムを導入すると、一般家庭:約24,000世帯の電力相当分から約37,000世帯相当分※3に増やすことができます。
※3 「平成22年度 下水処理場水質管理年報」(大阪市建設局下水道河川部)の消化ガス発生量等を元に住環境計画研究所 2010年9月の統計資料に基づきエネルギーポテンシャル量として独自に推計
環境省報道発表資料
研究開発に関する問い合わせ先
沙巴体育平台大学院工学研究科 教授 貫上 佳則
Mail: kanjourban.eng.osaka-cu.ac.jp
沙巴体育平台 都市エネルギー研究開発センター 高木
Mail: takagisakishima-smart.jp
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