ヒト肺炎病原菌の感染器官の構造を解明
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
<(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆12/4 日刊工業新聞
◆12/6 日本経済新聞
◆12/7 大阪日日新聞、HazardLab※
◆12/8 医療NEWS QLifePro※
概要
理学研究科 宮田 真人(みやた まこと)教授らの研究チームは、ヒトに肺炎を発症させる細菌、マイコプラズマ?ニューモニエがヒトに感染するために接着と滑走を行うための装置:“接着器官”の構造を、世界で初めてナノメートルレベルまで明らかにしました。
本内容は2015年12月4日1時(日本時間)に米国の微生物学専門誌であるPLOS Pathogensに掲載されました。
【雑誌名】
PLOS Pathogens
【論文名】
Systematic structural analyses of attachment organelle in Mycoplasma pneumoniae
【著 者】
Daisuke Nakane, Tsuyoshi Kenri, Lisa Matsuo, Makoto Miyata
【掲載予定URL】
http://dx.plos.org/10.1371/journal.ppat.1005299
研究の背景
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日本で毎年数万~数十万人が発症しており、ヒト市中肺炎の10-30%を占める“マイコプラズマ肺炎”は、マイコプラズマ?ニューモニエという小さな細菌(右写真は3Dプリンターで1万倍の大きさに出力した模型)によって起こります。この肺炎は、2010-2011年に世界的に大流行しました。また、最近にはごく近縁のマイコプラズマ?ジェニタリウムが起こす「非クラミジア性非淋菌性尿道炎」患者の増加も問題になっています。さらには、マイコプラズマ感染症はマクロライド系抗生剤での治療が行われますが、耐性菌の比率が増えていることも懸念されています。
これらマイコプラズマは、菌体の片側に小さな突起“接着器官”を形成し、この突起で宿主組織の表面にはりつき、はりついたままに動く“滑走運動”を行います。
◆参考動画
https://www.youtube.com/watch?v=bjsKderHU5E
(マイコプラズマ?ニューモニエの滑走の様子)
この接着と滑走は、マイコプラズマの感染に必須です。接着器官は、多種類のタンパク質により形成される複雑な装置で、ゲノム情報を見るかぎり既知の生物に類似のものは一切ありません。そのため、構造も接着と運動のメカニズムもあまり明らかになっていませんでした。これまでに10種類の構成タンパク質が報告されていますが、それらが装置のどの部分に存在するのか、あるいはこの10種類以外にも構成タンパク質があるかなど、多くの部分が謎でした。
研究の内容
右側:単離した接着器官の電子顕微鏡像
左側:菌体内で蛍光標識した構成タンパク質
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本研究では、まず接着器官を単離?精製して(右図右側)、その形状と大きさをナノメートルレベルで明らかにしました。次にそこに含まれるタンパク質を網羅的に質量分析で同定し、3つの構成タンパク質を新たに発見しました。さらに、それまでに見つかっていたものを含む13種類のタンパク質それぞれに蛍光タンパク質を融合したものを菌体内で発現し、蛍光顕微鏡を用いて詳細に解析(右図左側)することで13種類のタンパク質それぞれが接着器官のどの部分を構成しているかを決定しました(右下図)。そして、タンパク質の局在から、滑走運動メカニズムの解明に踏み込みました。
期待される効果
接着器官の模式図
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本研究は、マイコプラズマの接着器官の構造と機能に関する今後の研究を大きく進展させるものです。他に類のないマイコプラズマの接着器官の研究は、生体運動の共通原理と進化、そして細菌がどのように進化して生き残って来たのかという命題への理解につながります。また、耐性菌の蔓延により、抗生剤がマイコプラズマ感染症への第一選択肢ではなくなるかもしれない現代において、次の対策を得るためのヒントになると期待されます。
今後の展開について
今回用いたものとは別の電子顕微鏡観察法とタンパク質の結晶化を用いて、接着器官の構造を高解像度に解析する研究を進めています。それと並行して、蛍光標識したタンパク質の動きや接着器官の構造変化を調べることで、どの部分が動いて滑走運動が起こっているかを調べます。滑走と接着に必須のタンパク質の構造は、マイコプラズマ感染症の対策のための重要な情報となるでしょう。
共同研究、資金等
本研究は、下記の計画研究の一部として行われました。
◆科研費?新学術領域
「運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性」(領域代表:宮田)
http://bunshi5.bio.nagoya-u.ac.jp/~mycmobile/index.php
◆科研費?特定領域
「ゲノム情報にもとづくM. pneumoniaeの細胞構造の理解と病原性の解明」
(研究代表:見理 国立感染症研究所?室長)