人類の思いやりの起源はサカナまでさかのぼる!? 魚類のもつ向社会性を立証~サカナにも思いやりといけずがあることを発見~
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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆3/20 北国新聞、東奥日報、秋田魁新報、北日本新聞、山陽新聞、愛媛新聞、
熊本日日新聞
◆3/21 沖縄タイムス、YAHOO!ニュース
◆3/22 山口新聞、西日本新聞(夕)
◆3/23 中国新聞
◆3/24 新潟日報
◆3/25 北海道新聞、読売新聞(夕)
◆3/27 毎日新聞(夕)
◆4/16 読売新聞
◆5/11 山梨日日新聞
◆5/17 朝日新聞(夕)
研究紹介漫画
6コマ漫画で研究を分かりやすく紹介します。
概要
沙巴体育平台大学院 理学研究科の佐藤 駿客員研究員(総合研究大学院大学)と幸田 正典教授を中心とした研究グループは、中南米原産のペアが協力して子育てをする魚類、コンビクトシクリッドが実験下において“自分だけが餌を貰える選択肢(反社会的選択肢)”と“自分と自分の繁殖パートナーであるペアメスの両者が餌を貰える選択肢(向社会的選択肢)”の双方を提示した場合、自分とペアメスの両者が餌をもらえる向社会的選択肢を積極的に選ぶことを世界で初めて発見しました。
また、餌を受け取る相手がライバルのオス個体や初めて会ったメス個体であった場合、向社会的選択の割合が変化しました。この結果は、同様の実験を行った霊長類の結果と類似しています。
我々がもつ利他性(= 他者に利益を与える性質)、ひいては「思いやりの心」の進化的起源は魚類にまで遡ることができるかもしれません。
本研究成果は2021年 3月 19日(金)19時(日本時間)に、英国の科学専門雑誌『Nature Communications』にオンライン掲載されました。
本研究の戦略
私たちヒトは夫婦で協力して子育てを行います。また、私たちは知り合いだけでなく、初めて会った人同士でも協力したり、利他的に振る舞ったりすることができます。このようなヒトの利他性や協力的な社会はどのようにして構築されたのか、その進化的起源がどこにあるのかは、大変興味深い疑問です。そこで我々は霊長類などで向社会性(=他者に利益を与える性質)を調べる方法の一つである向社会的選択課題 (Prosocial choice task: PCT)を小型魚類であるコンビクトシクリッド(下写真)に対して実施しました。
この実験方法では図のように実験個体に“自分 (実験個体)だけが餌が貰える反社会的選択肢”と“自分と提示個体の両者が餌を貰える向社会的選択肢”を提示し選択させます。霊長類を用いたこの実験では、フサオマキザルやコモンマーモセットなどは向社会的選択肢を進んで選び、群れの仲間に餌を与えます。
コンビクトシクリッド
実験の結果、提示水槽に自分と子育ての経験があるメス個体(ペアメス)がいる場合、実験個体(オス個体)は積極的にオスもメスも餌がもらえる向社会的選択(結果?)をしました。一方、提示水槽に誰もいない場合(対照実験)実験個体は向社会的?反社会的選択のどちらかを好むことはありませんでした(結果?)。
さらに我々は、実験個体の向社会性に提示個体との関係や社会的な状況がどのように影響するかを調べるために追加で実験を行いました。追加の実験では、提示個体をペアメスから実験個体とライバルの関係にあるオス個体や初めて出会った未知のメス個体に変えて実験を行いました。この結果、ライバルのオス個体に対しては餌を与えない反社会的選択肢を積極的に選び(結果?)、未知メスに対しては自分の繁殖パートナーと同様に相手に餌を与える向社会的選択肢を選びました(結果?)。さらにこの未知メスの実験において、実験水槽の近くに元々のペアメスを提示した上で実験を行いました。すると、ペアメスがいない状況では「向社会的」選択をした実験個体ですが、ペアメスが近くにいると反対に餌をあげない選択肢である「反社会的」選択を行いました(結果?)。
結果①?②
結果③?④?⑤
これらのことから、実験個体は、ペアメス?知らないメス、ライバルオスをきちんと見分け、状況に応じて選択を変えていると言えます。このような夫婦とそれをめぐる「思いやり、いけず」とでも呼べるような振る舞いが観察されたのは、魚類でも初めてです。このように小さな魚が、繊細かつ絶妙な社会的振る舞いをとることができるのは、世界中で誰も予想もしていなかったことです。ペアで繁殖する魚は、世界中にいろいろな種類で報告されていますが、我々は、これらのペア繁殖魚類をはじめ、多くの魚類が実験下で確認された「向社会性」に基づいてきめ細やかな社会関係を保ちつつ生活しているのではないかと予想しています。
今後の展望:ヒトと動物の愛情はどのような関係?
今回、霊長類でみられるような他者に利益を与える性質(=向社会性)が魚類からも発見されました。しかし、まだ検証すべき点は多くあります。より厳密な行動実験により、彼らが本当に向社会性、それ生じさせる動機を持っているのか明らかにできるでしょう。また、このようなサカナの心はどのように進化してきたのか、我々は2つの仮説を考えています。1つは、ペアという社会関係に応じて、それぞれ魚と霊長類で独立に進化してきた可能性(思いやりの相似進化仮説)、他の1つは、魚の段階ですでに思いやりのような気持ちが進化しており、それが霊長類にも現れたとの考え方です(相同進化仮説)。
ヒトや哺乳類では思いやりや愛情を持った振る舞いにはオキシトシンとよばれるホルモンが大事な働きをしています。そしてオキシトシンと相同なホルモンを魚類も持っていることがわかっています。実験下で発見された魚類の向社会性にこれらホルモンがどのように影響しているか、加えて神経学的なアプローチも上記の仮説を検証する上で有効な方法になり得るものと考えます。
掲載誌情報
【発表雑誌】Nature Communications(IF=12.1)
【論 文 名 】Prosocial and antisocial choices in a monogamous cichlid with
biparental care
【 著 者 】Shun Satoh, Redouan Bshary, Momoko Shibasaki, Seishiro Inaba,
? Shunpei Sogawa, Takashi Hotta, Satoshi Awata, Masanori Kohda
【論文URL 】https://www.nature.com/articles/s41467-021-22075-6
資金等について
本研究は下記の資金援助を得て実施されました。
?科研費
『向社会的選択課題を用いた魚類の向社会性の認知?生理?進化基盤の解明』
『社会性魚類の顔認知や意図的だましの研究: 脊椎動物の社会認知の進化的起源を目指して』
『脊椎動物の社会認知能力の起源の検討:魚類の顔認知、鏡像認知、意図的騙しの解明から』
『脊椎動物の社会進化モデルとしてのカワスズメ科魚類の社会構造および行動基盤の解明』
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