高効率な新素材 蛍光ON/OFFスイッチング材料を開発
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆7/13 日刊工業新聞
◆7/18 化学工業日報
沙巴体育平台大学院工学研究科の清水 克哉(しみず かつや)大学院生(D1:博士課程教育リーディングプログラム履修生)ならびに小畠 誠也(こばたけ せいや)教授のグループは、蛍光分子とフォトクロミック※分子からなるポリマーを被覆した新しいシリカナノ粒子を使用した、高速でコントラストの高い蛍光ON/OFFスイッチング材料を開発しました。このシリカナノ粒子の表面にはジアリールエテンと呼ばれるフォトクロミック(※)分子と、フルオレンと呼ばれる蛍光分子からなるポリマーが高密度に被覆されており、紫外光?可視光を照射することで高効率な蛍光のON/OFFスイッチングを実現しました。
この研究成果は、2017年7月11日に国際学術誌ChemistrySelect にオンライン掲載され、また当該雑誌の表紙としても採択されました。?????????????????????????????????
??? ※光の照射によって可逆的に着色/退色または色調変化が起こる性質
雑誌名:ChemistrySelect
論文名:Synthesis and Optical Properties of Fluorescent Switchable Silica Nanoparticles Covered with Copolymers Consisting of Diarylethene and Fluorene Derivatives
著 者:Katsuya Shimizu and Seiya Kobatake(沙巴体育平台)
掲載URL:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/slct.201700698/full
研究の背景
物質のもつ光学的特性を電子工学の分野に応用するオプトエレクトロニクス(光電子工学)は、1960年代のレーザーの開発、1970年代に出現した光ファイバーなどにより急激に発展し、近年では光通信や光ディスクのような超高速情報処理の分野などでも注目を浴びています。同類の技術の一つである蛍光のON/OFFスイッチングは応用範囲が広く、材料となる物質の特性や装置の構造、当てる光によって、光り方?消え方、発光色、反応の持続時間や効率などが異なり、盛んに研究が行われています。中でも、最先端研究で頻繁に使用される超解像顕微鏡のバイオイメージング色素などへの応用が可能な蛍光のON/OFFスイッチングについては、世界中で高い関心が寄せられており、これらの応用に向けては、蛍光のON状態とOFF状態の間の高速かつ高効率なスイッチを達成することが最重要課題となっています。
蛍光のON/OFFスイッチングには、さまざまな材料が使われます。中でも、ジアリールエテンという分子は優れたフォトクロミック素材として、広く使用されています。このジアリールエテンが開環体で存在するときには蛍光はON状態であり、閉環体になると蛍光分子からのエネルギー移動が起こって蛍光が消光されOFF状態となります。このON/OFFスイッチングを効率よく引き起こすためには、ジアリールエテンと蛍光分子の分子間距離をできる限り縮めることが必要であり、その実現方法が求められていました。
研究内容および成果
材料の組み合わせを変えてみるという研究は数多く行われていますが、本研究では、代表的なフォトクロミック化合物であるジアリールエテンおよび蛍光分子であるフルオレンを有するポリマーを高密度にシリカナノ粒子に被覆するという新たなアプローチを提案し、その評価を行いました。
その結果、紫外光?可視光照射に伴い、同一ポリマー鎖内だけでなく、ポリマー鎖間のフルオレンからジアリールエテン閉環体へのエネルギー移動を利用した蛍光スイッチングに成功しました。本研究で得られたシリカナノ粒子の蛍光スイッチング効率を、ジアリールエテンとフルオレンを直接結合させた二量体およびジアリールエテンとフルオレンからなるポリマーと比較したところ(左グラフ)、本研究で合成したシリカナノ粒子はポリマーの2.5倍、二量体の20倍効率が増しました。したがって本研究で合成したポリマー被覆シリカナノ粒子が、最も効率よく蛍光ON/OFFスイッチングすることを示しました。
今後の展望
本研究は、蛍光ON/OFFスイッチング材料の新しい可能性を見出したものであり、フォトクロミック分子の構造や蛍光分子の構造を変えることによって、さらに高速でコントラストの高い蛍光スイッチング材料の設計が可能になると考えられます。また本研究で合成したシリカナノ粒子はポリマー末端に反応性の置換基を兼ね備えているため、さらに新しい機能を付与させることが可能です。このような材料は記録材料、表示材料、分子センサー、バイオイメージング色素などの用途に使用できる可能性があります。
<補足>
本研究の一部は、JSPS科研費 新学術領域研究「高次複合光応答」(JP26107013)の助成を受けたものです。また、筆頭著者の清水克哉は文部科学省が支援する博士課程教育リーディングプログラム★履修生です。
? http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/hakushikatei/1306945.htm
?本学では大阪府立大学と共同で「システム発想型物質科学リーダー養成学位プログラム」を実施し、将来産業界を牽引するグローバル人材育成を行っています。その一環として、自主研究費を活用した国内および国際学会への研究発表を強く推奨しており、清水氏は昨年度中国で開催されたフォトクロミズム国際会議で当該研究のポスター発表を行いました。国際会議には2016年ノーベル化学賞受賞者のBen Feringa教授が招待されており、著名な研究者と直接交流することができ大きな財産となったとのこと。
清水氏は本プログラムについて、「履修生にはさまざまな専門分野の学生がいるが、演習科目や自主交流で幅広い専門分野の学生と交流でき広い視野で物事を考えることが増えてきた。さらに、元役員クラスの企業出身者がメンターとなり、丁寧にサポートしてくださることから産業界でのリーダーとしての素養を身に付けることができるのも魅力の一つ。」とコメントしています。